天空の草原のナンサ

 有楽町のシャンテシネにて
 原題は「黄色い犬の洞窟」でモンゴルに伝わる伝説であるが、それがそのままこの作品のモチーフになっており、途中のおばあさんの話の中に出てくる。
 洞窟で見つけた犬をナンサが飼おうとするが父は反対するというので、実は「風の谷のナウシカ」で幼年期のナウシカが王虫を密かに草原の洞窟で飼っていたのを見つかり取り上げられるシーンを連想してしまった。
 しかし、ナンサはひそかに犬をかくまいながら、妹・弟の面倒を見ながら(牛糞での遊びなど)、馬に乗って羊の群れをまとめるなど、動物との対話は、まさにナウシカ並み。これが架空の世界でなくて、現代のモンゴルの一場面なんだな。そして、犬を探してがけの上から呼びかけたり、探すのに夢中になって帰り着かなくなって、おばあさんのうちで一休みしたり、そのナンサを心配しておかあさんが探すシーンは空の暗さと相まってどきどきもの。
 で、おかあさんもなかなか味わい深い。ナンサに出来ないことを悟らせるために手のひらを噛ませてみたりしたのが面白い。
 移動のためにゲル「移動式住居」を解体するシーンや食事、放牧のシーン、そして大自然は、まさにドキュメンタリータッチであり、それがよりモンゴルの時間の流れ(生活)の豊かさと穏やかさを感じさせ、それに家族、そしてナンサと犬のふれあいがあって実に心温まる素晴らしい作品となっている。
 それでも、途中まではナンサと犬は引き離されるかとおもったが、最後の方の犬がナンサのところに戻ってくるきっかけとなった末の弟を巡る事件は自然の(動物の)怖さも相まって実に手に汗握る展開。そして、この作品の家族が本当の家族と知ってびっくりである。
 なかなかいい作品を作る監督である。