歓びを歌にのせて

 渋谷のBunkamuraにて。
 主人公のダニエルの聖歌隊への指導がなかなか面白くみていた。寝転がってお互いの呼吸を感じたり、体操で体をほぐして(これはよくやるか)呼吸を深くできるようにしたり、携帯やコーヒーでしばしば練習が中断するのも苦々しく思いつつ受け入れたり、協会でダンスありのパーティーをしたり、なんとか聖歌隊のバランスをとろうと苦労しているのがみてとれた。オーケストラで世界的に有名であっても、コーラスはまたひと味違うものではあり、友人にアドバイスをもらったりしたが、その分、メンバーの素顔と直に接することができるのが、(指揮者時代には得られなかった)ダニエルにとっての歓びであったのだろう。
 そして、コーラスのメンバーのそれぞれの葛藤が素直に描かれていてのが良かったし、それだからこそ、途中のガブリエルの歌やラストのコーラスがより印象に残る素晴らしいものになったのだろう。
 ガブリエルの歌は、途中のコンサートのシーン、ラストシーンで流れるもので、ダニエルが彼女の声に合わせて作ったものであるが、最初歌うのを拒む彼女が歌えるようになるきっかけというのが、他のメンバー同士の本音のぶつけ合いであったのにはびっくり。
 コーラスのメンバーのそれぞれの振る舞いや本音のぶつけ合いはリアルであり、最初はバラバラであったメンバーの気持ちが徐々にまとまっていくのが、「Amazing grace」の1回目と2回目の違いで分かるし、なによりメンバーがみんなで教会を出て、ダニエルの家に向かうのでもわかる。この人々の気持ちがまとまったのが、そして、自分の少年時代から指揮者時代のトラウマを乗り越えていったこともダニエルにとっての歓びであったと思う。なにより、心身ともにぼろぼろになった彼が自分の故郷に戻って、音楽の原点を彼自身がそしてコーラスのメンバーが存分に楽しんだのが何より良かったかな。そういうのが人々の心を動かしていくのだろう。